[[ PANDARA ]]

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いったい何が間違っていたのか?
箱がそっと開かれた時、世界は色を失った。
灰色の皇帝が、手の届かぬ空から、
平等なる裁きですべてを支配する。
平和をおびやかす可能性のある種は、
音もなく消し去られた。
最初から白と黒しかなかった
動物たちは、戦うことにした。
箱を開いた女――
ワイズマン31クレアーを
滅ぼすために。
何故戦うのか? 何が気に入らないのか?
わからないからこそ――
彼らは白黒をつけるのだ。
いったい何が間違っているのか?


◆◆ サルビアの物語 ◆◆

少女サルビアは風を自在に操る
エアストリーマーの一族に生まれた。
若くして類稀な素質と人一倍旺盛な好奇心、
舞風のように自由奔放な精神を持っていた。

エアストリーマーとパンダは
どちらも戦闘が得意な種族として似ていたが――
「自由を欲するが故に戦う」
「白黒をつけたいが故に戦う」
戦う動機が微妙に違うので――
あまり仲は良くなかった。

或る日、一匹のパンダは放浪の旅の末に
北の大地へと迷い込んだ。
寒さの厳しい土地でありながらも
美しい銀世界に魅せられたパンダは
そこを住処と決めた。
そこは若いエアストリーマーたちの
遊び場でもあったが、パンダは気にしなかった。

悪戯好きなサルビアが、変わり者のパンダに
ちょっかいを出したくなったのは自然な事だろう。
やがてサルビアは、無愛想ながらも
底しれない包容力のあるパンダを愛するようになった。
パンダも、磨くほどに輝きを増す宝石のような
少女の素質をずっと見ていたいと思った。

しかし――灰色の皇帝が、
パンダの故郷を滅ぼそうとしていた。
パンダは故郷に戻って戦うことにした。
サルビアはワイズマンの恐ろしさを
知っていたので、愛するパンダを
必死に引き留めようとしたが……

パンダはひとり、北の大地から去った。
そして、帰らぬパンダとなった――。
悲しみと絶望のあまり、
サルビアは正気を保てなかった。
少女の崩れゆく精神は容易く、
ワイズマンの意志に呑み込まれた。


◆◆ タチバナの物語 ◆◆

規律と秩序、伝統を重んじる千年の帝国は、
ワイズマンの支配にあっさりと降った。
新しき指導者の下で盤石な体制を
作り出すことが賢明だと、彼らは考えた。
当然、支配に屈しなかったパンダたちとは
幾度も戦火を交えることになった。

そんな中、一匹のパンダが帝国に投降した。
誰もがスパイと疑ったが……
一匹だけでは何もできないだろう、
逆に利用してやろうと、
帝国は厳重な監視下の元に
パンダを受け入れた。

巫女として生まれ育った少女タチバナは、
何故かそのパンダに興味を持った。
幾多の問答、時には刀を交えて……
少女とパンダは心を通わせた。
タチバナは純然たるパンダの想いに惹かれ、
彼がスパイではないことを確信したが……
その奥底に本当の目的があると感じた。
彼女がそれを知ることになるのは、
千年の帝国が滅び、彼が死んだ後だった。

ワイズマンは最初から古き体制を一掃して、
世界のすべてを作り変えるつもりだった。
古きニンゲンの純血種で構成された帝国も
消し潰される運命にあった。
既に傀儡と化していた帝国軍は、
まともに反撃できず壊滅した。

サムライの剣術を学んだパンダは、
最後まで戦い続けた。
タチバナも最後まで戦った。
目の前で、パンダが息絶えた時……
タチバナは、ふたつのことを知った。
彼は戦う為に帝国に来たこと。
自分は彼を心から愛していたこと。

パンダたちは帝国が滅ぼされることを
予見していた。
彼は千年の帝国が亡くなるのは
とても残念だと思い、
単身で帝国に降ったのだった。
悲しみと無念がタチバナの心を食い荒らした。
儚い少女の精神はもがきながらも、
生きる気力を振り絞ることができず……
ワイズマンの意志に呑み込まれた。

…………

少女の心が砕かれてから百年の月日が流れた。
サルビアとタチバナは皇帝の側近となり、
灰色の世界に、無情な破壊と新生を齎していた。
喜びも悲しみも愛も失い、
老いも死もない肉体と殺戮の衝動が
今の彼女たちのすべてだ。

パンダたちは、まだ、飛んでいた――。
〜 パンダたちの生態について1 〜

ある日、白と黒の動物たちは
草の取り合いでけんかした。
そこで、決着をつけることにした。
「先にこの草を食べたものが負けだ」
けんかの原因を置いて日が落ちた。

次の日、草はすっかりなくなっていた。
……誰が食べたのか……
そんなことはどうでも良かった。
みんな、最初から勝つ気はなかった。

「誰もが勝ちで、負けということだ」
「それは白黒がついてないのでは」
「けんかをした時点で俺たちの負けだった」
「草を得た時点で俺たちの勝ちだった」
「最初から白黒はついていたのだ」

ただ上手い草が食べたかっただけ。
勝ち負けは、どうでも良かった。
でも白黒はつけねばならないのだ。
彼らはそんなゲームを延々と繰り返し、
知恵と爪を磨いていった。

〜 パンダたちの生態について2 〜

ワイズマンの支配が始まる前、
危険な薬物が世界に出回っていた。
途方もない快楽と美しい幻覚を齎すが、
依存症で身も心も駄目になってしまう。
多くの生き物たちが犠牲となった。
パンダたちは、
駄目になってはしょうがないと
誰も手を出さなかった。

ワイズマンと皇帝はその薬物を禁止した。
多くの生き物たちは当然だと思った。
しかし、パンダは怒った――。
選択する自由を奪われ、
勝手に白黒をつけられたのが、
とても気に入らなかったのである。

キレたパンダたちは、
なんと禁止された薬物を栽培し始めた。
研究を重ねて毒物を可能な限り排除し、
依存症のほとんどない葉巻を作り上げた。
何故そこまでするのか? 
多くの生き物たちは理解できなかったが……
パンダたちは灰色の空を睨みながら
今日も上手い煙草を吸っている――。

白と黒の動物――パンダたち
かれらは何故、爪を研ぎ澄まして、
ワイズマンの支配に立ち向かうのか?
もともと白と黒しかなかったパンダたち。
世界から色が失われても
何も変わらなかったのではないか?
そうではなかった――
彼らは皇帝のもたらした
灰色の空が気に入らなかった。
何かとほうもないものが失われたと感じたのだ。
何が失われたのか?
それは誰にもわからない。
パンダたちもよくわかってはいない。
それでも――
戦う理由は十分なのだ。
生命は机上の理屈だけで
決して成り立ってはいない。


<< 設定資料 >>

ポインセチア神殿

かつて最下層に
『パンダラの箱』があった神殿。
誰が何のために建てた神殿なのか
今や誰も知らない。
しかしパンダたちはどこか懐かしさを
感じる場所であるらしい。
パンダたちはワイズマンの支配から
真っ先にこの神殿を奪い返したが、
深い理由などまったくなかった。
パンダたちは速やかに去ってしまったので
再びワイズマンに神殿を支配されてしまった。

ガーベラ遺跡

謎の古代文明の遺跡。
ワイズマンの配下が駐在する砦となっている。
魔女たちが守っている『イースターエッグ』は、
パンダたちをせん滅する為に
ワイズマンが生み出した
純粋なる戦虎(ウォータイガー)が眠っている。

ロビオプシスの森

ワイズマンの洗脳によって
凶暴化した動物たちが徘徊する森。
深部には皇帝配下のロボット兵と
大型のゴーレムが配備されている。

海上機動要塞『ナグルファー』

ワイズマンは世界の半分以上を占める
海を支配する為に、多くの機動艦隊と
大型の機動要塞を各地に配備している。
アリッサム海域を巡回する
『ナグルファー』はそれら要塞の中でも
司令塔的な役割を持っており、
その保持戦力も最大である。
生半可な覚悟で挑んでも
巨砲の火力に蹴散らされ、
撤退を余儀なくされるだろう。

※画像は旧バージョンのボスです。
 最新版はグラフィックが違います。
軌道エレベーター『ナルキソス』

宇宙まで続いている巨大な塔。
上空から世界を監視し、
皇帝をサポートする役目も担っている。
また通路内格納庫には、
古代文明の再生兵器が配備されている。
ワイズマンの居城に向かうには、
『ナルキソス』内部の脅威を
事前に排除しておく必要がある。

星間機動戦艦 ポラリス 

かつて宇宙で長く凄惨な戦乱の時代があった。
多くの植民惑星と異星人種が巻き込まれ、
多くの罪なき生命と星が死に絶えた。
そんな時代に開発された兵器群は、
より効率的な破壊と速度を求められ、
今や想像もできない至高の域であろう。
『ポラリス』は迅速に惑星間を移動し、
敵母星の中枢を破壊する為に生まれた。
クレアーは『ポラリス』を軌道エレベーターの
守護兵器とするべく、その記録の断片から
再生を試みたが完全には復活できなかった。

※写真はオリジナルのカラーデータ。
絶対戦闘機 ノーブ(NOB) 

『ポラリス』と同様、宇宙戦乱時代に
開発された戦闘兵器であり、
ワイズマン・クレアーが再生したもの。
絶対戦闘機(アブソリュートファイター)とは
単独で敵の主戦力を迎撃し、
壊滅させることを目的として作られた。
幾度ものバージョンアップを重ねた
この筋金入りの殺人機は、多くの惑星と
宇宙居住区に甚大な破壊を齎した。
しかし『ポラリス』以上にオリジナルの断片は
失われており、この世界に登場する物は
かつての戦闘力を発揮できていない。
正式名称も『NOB』ではなく、
もっと長い名前であったらしいが、
解析できたのが頭の三文字だけだった。
パンダたちにとっては幸運なことだが、
それでも十分に脅威であろう。

※写真はオリジナルのカラーデータ。
グレイエンペラー『ブリカム』
アシイエンペラー『サクラム』


パンダラの世界を支配する空中要塞。
中枢システムの名称でもある。
破壊されてもクレアーはすぐに
新しいシステムを創造できる。

ステーション『タケノハナ』

衛星軌道上に存在するワイズマンの居城。
空中要塞のシステムに守られており、
通じる道は軌道エレベーターのみ。
『タケノハナ』に乗り込むには
空中要塞の中枢を破壊した後、
迅速に軌道エレベーターの内部通路へ潜入し、
最上層まで一気に飛翔するしかない。

ウォータイガー『トラボロス』

パンダたちに対抗する切り札として、
クレアーの生みだした純粋なる戦虎。
性格は凶暴で常に戦いに飢えており、
生みの親であるクレアーの
言うことしか聞かない。
一度暴れ出すと、世界の半分を焦土と
化しても収まらないと言われている。
危険すぎる為、普段は『タケノハナ』内部の
仮想空間に閉じ込められている。


※すべての設定はフィクションです。実在の動物とは一切関係がありません。


<< あとがき >>

『パンダラ』は2014年の正月に作り始めました。
元になったアイデアをまとめておいたテキストファイルの
作成日時は2010年。4年前から考えていたゲームです。
最初からモノクロのビジュアルと、
シンプルなゲームシステムは決まっていました。
チャージショットは後から追加したアイデアです。
7面くらいで完成させる予定でしたが、
結果的にこんだけのボリュームになりました。
(それでも足りないという人もいるとは思いますが)

ノベルパートを入れる事は最初は考えておらず、
スクロールのゲーム展開だけで物語を作るつもりでした。
しかし今のユーザーにはそれだけでは訴求力が足りない。
どうやっても伝えきれないのではと考え直しました。
かといってノベルですべてを語るのもいやです。
言葉のないシーンから想像して
個々のプレイヤーだけの物語を構築するのも
ゲームの楽しみ方だと思うからです。

作中ではパンダの戦う理由と生態、
タチバナとサルビアの過去が語られていますが、
これだけではストーリーとしてまったく不十分です。
タチバナとサルビアは皇帝の側近となるまでよりも、
パンダと戦い続けている二百年の方が
明らかに時間が長いのですから。

味方パンダはゲーム中で主人公を支援してくれますが、
すぐにやられてしまいます。
しかし後半になると若干耐久力が増え、
やられた後もバリアを張って突撃してくれます。
味方パンダも成長してるわけです。

そして、主人公のパンダは何者なのか? 
という疑問に辿り着く人もいるかもしれません。
主人公について作中では一切が語られていません。
二百年間成長しながら戦い続けている主人公は
この世界においても普通のパンダではないでしょう。
不老不死で生き続ける能力を持ったパンダなのか? 
世代交代を繰り返し強くなるパンダなのか? 
想像力を膨らませて下さいますと幸いです。

このゲームは16次元レコード様の音楽を使用しています。
多くはクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CC-BY)になっています。
(アルバムによってCCの範囲が違うので使用の際はご注意を)
同人ゲームではあまり使用されていないようですが、
ニコニコ動画では馴染みがあるようで、
聴き覚えがある方もいらっしゃったようです。
16次元レコード様の曲はいつかゲームに使ってみたいと
ずっと思っていて、それがようやく実現できました。
曲名をそのままステージのタイトルやキャラクタに引用して、
ステージ内容も曲の雰囲気に合わせて構成してみたつもりですが
如何でしょうか……。
自分はまずBGMありきでゲームを作る事が多いです。
デザエモンで作ってた頃も、最初に音楽をほぼすべて作ってから
ステージその他の制作に進んでいました。
一般的な2Dスクロール・シューティングゲームは
BGMに合わせて展開や演出を組み込めるのが強みですね。
16次元レコード様の素晴らしい音楽も、
想像力を膨らませる素材となって下さるだろうと思います。

ゲストキャラクター(ネコバ・ユフォリア)使用時には
早水智仁様とchin様の作曲されたBGMに変わります。
所謂、東方風となっており、違った雰囲気で楽しめると思います。

『パンダラ』はとにかくシンプルに自分の理想を追求し、
余計なものは排除したゲームになっています。
ないものは足りないのではなく、要らないのです。
あくまで私にとっては、ですが……。
なのでこうして、あとがきや設定で語るような事も
実のところはないと思ってたりします。
ゲームはゲームの中だけで完結すればいい――。

最近はどうにもゲームの外にも繋がりを求めるような
傾向が強いと感じます。
まあ昔もユーザー同士で情報交換したり、
雑誌の情報を前提とするようなゲームの方が
主流ではあったと思いますが……
外の繋がりがメインとなってゲーム自体の存在が
コミュニケーションのツールと化してしまうのは、
自分の理想とするものからあまりにも遠い。
所謂ソーシャルゲームを忌避してる人たちも
同じような思いを抱いてるのかもわかりません。
ぶっちゃけこのゲームも話題になってくれた方が
興味を持ってくれる人が増えるでしょうから
その方が嬉しいかもしれないんですが……
一過性の話題の為のツールと化すよりは、
ひっそりと楽しまれた方がマシな気もします。
むろん、商業ゲームとしてはすぐに話題になって
短期間で売りさばける方が優れているでしょう。
でも同人ゲームはそうじゃなくてもいいですよね。

昨今のゲームファンが何を求めてるのか、
自分には理解できない事も多々ありますが、
それぞれが好きなものを追及しているのは違いないでしょう。
私も自分の好きなもの、理想とするものを追求するのみです。
すべてのゲームファンが幸福であることを願います。